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役員の部屋|2019年12月

更新日:2021年6月28日


Eテレ出演・自己治癒コンクリート


西脇 智哉



 

去る2019年9月29日放送の「サイエンスZERO」という番組(Eテレ・NHK)に、「キズが勝手に治る!自己治癒コンクリート&セラミックス」というタイトルで出演させていただきました。この番組は、「ディープな科学が見えてくる」として、多岐に亘る科学技術の最先端を紹介する番組です。私が学生であった頃に、恩師の三橋博三先生からいただいたテーマとして長く取り組んでいる自己治癒コンクリートについて、残念ながら自身の研究紹介はかなり少なめではありましたが紹介させていただきました。


 自己治癒材料は近年大きな注目を集めています。たとえば、2007年から隔年で「International Conference on Self-Healing Materials (ICSHM)」と銘打たれた国際会議が継続しており、2019年には第7回会議が6月に横浜で開催されました。ここには、約200名の研究者が世界各国から集まり、セラミックス・金属・ポリマー・塗装など分野横断的な研究発表が行われます。今回のテレビ出演は、この横浜開催の国際会議で事務局を務められた材料・物質研究機構(NIMS)の長田俊郎博士とのご縁で、高温下(1000℃など)で亀裂を塞ぐという自己治癒セラミックスと併せて、自己治癒コンクリートが紹介されました。コンクリートに関する自己治癒については、上述のICSHMでは最大の参加者数を誇り、世界各国で常に多くの研究が行われています。その詳細の説明は、例えば文献などに譲りますが、番組ではヨーロッパを中心に広く研究が行われている、バクテリアを利用した自己治癒コンクリートが紹介されました。これは、コンクリート中に「エサ」とともに混錬したバクテリアが、コンクリートが健全な状態では休眠しているが、ひび割れが生じて水や酸素が供給されると活動を再開して、新陳代謝のプロセスで炭酸カルシウムを析出させてひび割れを埋めるというものです。


 私自身はこの手法とは異なり、繊維補強コンクリートを利用したものや、発熱デバイスを用いたものなどを研究しています。コンクリートは微細なひび割れ(0.1mm以下など)であれば、水の供給による炭酸カルシウムの析出や未水和セメントの反応などによって、ひび割れを埋めるポテンシャルを本来的に持っています。混入する繊維の種類や量、また、適切な混和材や十分に小さい水セメント比にするなどして、このポテンシャルを高める研究に取り組んでいます。


 日本は少子高齢化や人口減少、特に建設業界では労働者の高齢化など、極めて厳しい状況にあります。自己治癒コンクリートは社会を支えるコンクリート構造物に対して、その維持管理の省力化・省人化を実現しながら長寿命化させる技術たり得ると考えております。次回があれば自身の研究トピックを紹介いただけるよう、この新しい技術を着実に実用化させるべく一層精進していきたいと思います。

サイエンスZEROウェブサイト(https://www4.nhk.or.jp/zero/)より

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