コンクリートaiサロン | 2026年11月

「農業農村整備事業におけるプレキャスト化の挑戦~最低価格から最大効果へ」
株式会社ホクエツ
久道 雄一
建設業界の深刻な状況を背景に、とりわけ農業農村整備の現場では限られた労働力と短い工期の中で、長時間労働や休日労働に依存せざるを得ない実態があり、いかに効率的に事業を進めるかが急務となっている。
宮城県農政部では今後の農村整備事業の持続的推進を目的に、『機械化施工標準化資料作成業務』という事業を立ち上げ、従来の現場打ち工法を前提にした「設計マニュアル~小口径ポンプ場編~」の改定作業に、私の所属する宮城県コンクリート製品工業会も参加することになった。
「小口径ポンプ場」いわゆる揚水機場は、ため池から取水し、ほ場内にパイプラインで水を圧送する鉄筋コンクリート構造物で、概ね150t~250tに及ぶ水利施設である。

機械化施工を可能にする一つが分割式プレキャスト工法。構造物を複数部材に分割し、工場製作したプレキャスト部材を現場で組み立てる工法である。様々な工程管理、品質管理を工場内で行うため、現場での作業が大幅に削減でき、天候の影響を受け難くいことから工期の短縮、そして機械化施工とすることで作業負担の軽減と、生産性、安全性の向上が図られる工法である。
一方従来工法では現場ごとに最適断面での設計が可能だが、そのままプレキャスト化すると型枠改造に伴う費用が増大する。この課題に対し、断面形状の一定の規格化を図り、量産効果によるコスト縮減を可能にした。
更に特殊車両を必要としない分割サイズに設計したことで運賃効率も最大化し、大分コスト縮減も進んだが、生産性が向上した分のコストを加味したとしても、初期の建設費だけを見れば依然従来工法が「最低価格」になる状況。
しかし性能を向上させ、ライフサイクル全体で見るとその評価は全く異なる。
① 100年以上の耐久性:高耐久コンクリートの採用により、従来(40〜50年)の倍以上の設計寿命を実現し、50年後のライフサイクルコストは逆転する。
② 60年間メンテナンスフリー:新開発の目地シーリング材料等により、レベル2地震動への耐震性と、60年以上の耐候性を両立させ、コンクリート部材も含め、維持メンテナンス費用を大幅に削減した。
③ 環境負荷の低減:部材の高強度化によるボリューム削減と、老朽化による更新回数の減少でライフサイクルCO2が削減され、脱炭素にも貢献可能。
このように単にプレキャスト化するのではなく、長寿命化を図ることで、労働力不足、人口減による公共予算の減少、そして温暖化による災害の頻発化した社会において、「最大効果」を発揮できる工法と位置付けられ、新設計マニュアルは令和6年4月、政府が出した「働き方改革関連法案」施行と同時に発行された。
これまで多くの実績を重ね、既に建設用3DPの試行など、新技術の導入も進んでおり、従来工法で【2ヶ月】かかっていた工程を【約2週間】にまで圧縮できている。
人口減少社会において、公共事業は単なる「最低価格」の追求から「最大効果」の創出へと価値基準を転換する時が迫っていると感じる。




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