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コンクリートaiサロン|2021年11月


シン・コンクリート


阿部 孝



 

 業界誌に「日経コンストラクション」がある。建設関連に従事している方であれば、見たことがあるのではないだろうか。記事は、その時々の話題を取り上げて「特集」が組まれている他に、ニュースとして時事・プロジェクト、新製品や新サービスなど、技術情報、国交省工事における高評定点の取り方、受験対策などが掲載されており、業界の情報が満載である。

 今年の7月12日号の表紙に「特集 シン・コンクリート」とあった。

 「新」ではなくて「シン」?、何だろう・・・。

 特集の部分を開いてみると、「次世代コンクリ―ト」の特集であった。

 興味深く読んだものを幾つか紹介する。


1)自己治癒及び鉄筋腐食抑制効果を持つコンクリ―ト

 補修材として納豆菌を用いている。納豆菌は、二酸化炭素を排出するので析出する炭酸カルシュウムがひび割れを埋めることができ「自己治癒コンクリ―ト」が形成される。加えて、好気性微生物の代謝によって酸素を減らせるので鉄筋の腐食抑制効果が期待されている。塩化物対策として様々な表面被覆対策が実施されているが、塩化物イオンを完全に遮断することは難しく、腐食反応に必要な酸素を減らすことで腐食反応を抑制する新たな取り組みである。


2)自己収縮と乾燥収縮がほぼ無いコンクリート

 セメントを産業副産物であるフライアッシュに全て置き換え、少量の膨張材を添加することで70N/㎟程度の強度を確保でき、又細骨材として産業副産物のフェロニッケルスラグ細骨材を採用することで収縮・クリープが大幅に抑制される。収縮やクリープが大幅に低減されれば、PC部材設計では有効プレストレスの改善が図られる他、ひび割れの少ないコンクリート構造物の構築が可能になり、耐久性の向上に大きな効果が期待される。


3)練り混ぜ水として海水を用いた高い流動性をもつコンクリート

 セメントを全く使用せず、骨材及び結合材として産業副産物である鉄鋼スラグを用い、これに練り混ぜ水として海水を用いている。海水を用いることで、海水中の塩化物イオンは早強性に、硫酸イオンは強度増進に効いている。また、このコンクリートは高い流動性を有し、練り混ぜから120分を経過してもスランプロスはほぼ無い。高い流動性は、暑中にコンクリートを打ち込む際や遠方の現場への生コンを運搬する時などに優位性が期待される。


 近年、各地で頻発する豪雨は、洪水、高潮、土砂災害などの自然災害を引き起こし、その勢いは凄まじいものとなっている。原因は、温室効果ガスによる地球温暖化であると言われており、環境変化は各地で異常気象をもたらしている。

 社会全体として温室効果ガス排出量の実質ゼロに向け、「脱炭素社会」を目指した様々な取り組みが行われており、上記の2)、3)の次世代コンクリートは、セメント製造時に排出される二酸化炭素に着目した取り組みである。

 時代の要求に応え、かつコンクリートへの常識を打ち破る技術開発が進められていることは新たな発想(取り組み)である。これからは自然環境の維持・保全に向けた新材料の開発、インフラの維持管理性に配慮した高耐久性などがより一層求められていると感じた。



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