シンギュラリティは近い?
渡邉 弘子
新年度が始まりました。3月31日と4月1日は連続した時間なのですが、何となく気持ちが切り変わるから不思議ですよね。そんな中、3月15日に発表されたニュースに触発されて思うことがありました。
牛乳、卵、小麦粉で何が作れる?
ここに、一枚の写真があります。写っているのは、牛乳、卵、小麦粉。さて、これで何が作れますか? 私なら、パンケーキやパウンドケーキでしょうか。これに対して、『ある者』は「パンケーキやワッフルなど無限の選択肢がある」と答えたそうです。「無限の選択肢」というところがすごいと思いませんか?
人間の上位10%に相当する賢さ
この『ある者』とは、『ChatGPT-4』。「それ、人?」と思ったあなた、そうです、人ではありません、AI(人工知能)です。インターネット上の膨大なデータによる知識を蓄えていて、人間の言葉を理解して文章を作成することができる、対話型AIです。
『ChatGPT-4』の「Chat」はいわゆるチャット(おしゃべり、雑談)です。zoomにもチャットボックスがありますよね。ネットワーク上でリアルタイムに文字で会話ができる、あれのことです。オンラインショッピングなんかしてると、「何か質問はありますか?」と尋ねてもくれますね。「GPT」はAIの種類で「Generative Pre-trained Transformer」の頭文字です。
「4」はバージョンを示しています。最新版である、この「4」が3月15日にリリースされたのです。開発元は米国のOpenAI社。「4」になって何がすごいかと言うと、第1にいま言
ったように画像を理解すること、第2にその前の「3.5」に比べてメチャクチャ賢くなったことです。アメリカの司法試験を受けさせたら、人間の上位10%に相当する成績をたたき出し、合格間違いなしだったそうです。ちなみに、「3.5」は人間の下位10%に相当する成績しか取れなかったそうですから、飛躍的な進歩です。
シンギュラリティがやってくる
IBMが開発した『Deep Blue』が当時のチェス世界チャンピオンに勝利し、世界中に衝撃をもって伝えられたのは1997年のことです。あれからもう26年。ペッパーくんが登場してからも、もう9年です。AI技術は着実に進化しています。
医療では大腸ガンをみつけるAIがいますし、物流では荷物を効率的にピッキングする自律移動型ロボットが活躍しています。建設DXも進んでいますし、自動運転車も試行的に走っています。
こうなると、気になるのが「シンギュラリティが来るのはいつ?」ということです。シンギュラリティとは「技術的特異点」で、「技術進化が進んだ先に待っている、これまでの社会とは常識が一変する転換点」のことです。私は、携帯電話(ガラケー)が突然劇的に小さくなった時(1989~1990年頃)もシンギュラリティの一つだと思っているのですが、今の定義では「AIが全人類の知能を超えるとき」のようです。段階として、まず人間の賢さを超え、その後、全人類の知能を超えちゃうんです。
発明家で人工知能研究の世界的権威でもあるレイ・カーツワイル氏は、『シンギュラリティは近い』という本の中で、その到来を2045年と予測しました。でも、これは2005年の話です(本の発行は2007年)。あれから18年。技術進化のスピードは速まっていて、私は2045年よりも早い気がします。
コンクリート診断士の存在意義とは
シンギュラリティが来ると何が起きるか。いちばん影響が大きいのが、良く言われているように、一部の仕事がAIに置き換わられることです。
良い意味で置き換わるなら歓迎です。たとえば、飽きてしまうような単純作業や過酷な肉体労働などを、人間と同じような動きを再現できる機械がやってくれれば助かります。高精度の自動翻訳機ができれば、言語の壁を越えて誰でも世界のどこででも活躍できるかもしれません。望まない長時間労働から解放され、希望する仕事に就けて、人生をより楽しめるなら大歓迎です。
でも、負の面もあります。AIは大量のデータを解析して、そこから傾向や答えを導き出すのが得意です。人間では覚えきれないような膨大な事例をインプットして、それらを元に判断することができるのです。先述したように、人間の医師が見落としてしまうかもしれない病巣をみつけることができます。過去の膨大な判例から、人間の裁判官より的確な判決を下すかもしれません。単純労働だけでなく、知識を必要とする仕事でも職を失う人が出る可能性があるのです。
となると、そう、コンクリート診断士だって、うかうかしていられません。知識や経験を身につけることに重きが置かれた、今の資格制度の意義も問われるでしょう。その時、私たちコンクリート診断士は、人間としての優位性をどうやって保てば良いのでしょうか。「AI超え」と呼ばれる藤井総太棋士のように、「AI超えコンクリート診断士」であるためには、私たちはこれからどうしていけば良いのでしょうか。今の私に答えはありません。シンギュラリティは、もうすぐやってきます。
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