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役員の部屋|2020年12月


オンライン現場見学


西脇 智哉



 

 今年のコロナ禍は、大学での講義の形を大きく変えました。2020年4月からの前期講義期間では、これまで当たり前であった対面での講義が不可能になり、オンライン化を余儀なくされました。東北大学でも全面的なオンライン講義に切り替え、色々なトラブルも経験しながら5月の連休明けには正規の講義が供給されるようになりました。オンライン講義の功罪は既に多く語られているように、大きな制約がある一方で、ポジティブな側面も多々あった実感があります。しかし、学生が参加して手を動かす・体験することが必要な、演習・実験系の講義や、例年行っている建築現場の見学を、「三密」を回避して感染リスクを抑えて実施ためには、工夫が必要です。ここでは、オンラインで実施した現場見学の例をご紹介します。

 私が担当する講義「建築施工」は必修科目で、例年50名程度の履修者を連れて複数回の現場見学を行っています(ご協力いただいている多くの建設会社に感謝申し上げます!)。この人数を引き連れて、例年通りの現場見学実施は現実的ではありません。そのため、5名以下の受講生のみが現地に来場し、彼らが現場見学を行う様子をオンライン配信する形としました。ご説明いただく建設会社職員(2~3名)、教員(私・1名)、補助大学院生(Teaching Assistant, TA・2名)をスタッフとした総勢10名以下程度の人数が実際に現場を回ります。複数台のポケットWi-Fiを持参して通信環境を整え、これを介して広角カメラ(GoPro)と通常カメラ(iPod)の2台のカメラ映像を、リアルタイムでオンライン講義に配信しました。現地にいない受講生たちは、自宅などからこの様子を視聴します。ただ単純に、現場の様子を配信するだけならば、5名以下の受講生も現地参加の必要はありません。しかし、プロ仕様の機材もノウハウもない素人撮影では、受講生にとっては「とても退屈なテレビ番組」を強制的に見せられるようなものです。そのため、現地参加組からのリアルタイムの質疑、また、オンライン受講生からも同様に質問を受けるウェブサービス(https:// sli.do/)を併用して、ライブ感を出すことを重視しました。

図1 オンライン現場見学システムの概要

  

 以下の画像は実施例です。図2は広角カメラからの映像で、現場全体の様子を配信できます。ここから、図3のように通常カメラでピンポイントに寄った画像を加えることで、詳細な説明も可能になりました。従来行っていた大人数での見学では、全員に声を届ける難しさを感じていましたが、全体への周知は却って容易になった印象です。図4は現地での質疑応答の様子です。現地参加の受講生の質問にご対応いただくのはもちろん、オンライン受講者の質問(図5)も図1右下のオンラインTAが取り纏めて現地に伝え、現地に居なくても自身の質問の答えが得られるようにして、自宅にいながら「参加している」実感を持てるように工夫をしました。オンライン参加した受講生からは、思っていたよりも現地の雰囲気を感じることができた、詳細な説明も漏れなく聞けて理解が深まったといったポジティブなコメントがあり、また、現地参加の受講生からは現地に来れたからこその実感があったの感想ももらいました。コロナ禍への緊急対応というきっかけでしたが、双方にとって、ポジティブな効果が得られたものと考えています。


図2 広角カメラによる映像

図3 通常カメラによるピンポイントの映像

図4 現地・オンラインを問わない受講生からの質問に現地で応答

図5 オンライン受講生(匿名可)からの質問

 

 現在のコロナ禍が未来永劫続くとは考えにくい一方で、残念ながら次年度にすべてがコロナ禍以前に戻るとも考えにくい状況です。私の所属する東北大学 都市・建築学専攻では、2020年度後期もほぼすべての講義がオンラインのみです。

 翻って、コンクリート診断士が行う現地調査について考えてみた場合、現地に技術者が赴いて調査・診断を行うことが当然の基本であることに変わりはありません。一方で、特に地方での技術者不足や、東北地方のように物理的な長距離移動が避けられない状況を考慮すると、このようなオンラインの活用はより積極的な武器の一つとして整備することが望ましいと考えます。ドローンからの映像による配筋検査や、重機の遠隔操作なども注目されている中、実体験をもってオンラインの可能性が感じることができました。2021年度の状況は不透明ですが、たとえば例年7月に行っていた劣化構造物を訪れての技術講習会もオンライン配信するなど、宮城県コンクリート診断士会の活動にも積極的に取り入れて活動範囲を拡充できる可能性があると考えます。


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