今後の維持管理について思うこと
阿部 孝
私は、建設コンサルタントに勤務し、主に道路に関わる構造物の設計に従事してきた。ここ何年かは維持管理業務のウエイトが次第に高くなり、橋梁点検、橋梁補修や補強設計、橋梁長寿命化計画などが業務の半数を占める様になった。
わが国の橋長2m以上の橋梁は72.5万橋あると言われており、管理者別に見てみると、国交省管理が3,8万橋、高速道路会社管理が2.4万橋、都道府県管理が18.7万橋、市町村が47.7万橋(66%)であり、市町村が管理する橋梁が圧倒的に多い。
従来、維持管理は劣化・損傷が進行して機能低下が確認された時点で対処する「事後保全」で実施されてきたが、構造物の劣化・損傷が比較的軽微な段階で細目に対処する「予防保全」にシフトされている。一方で、市町村では専門技術者が不足するか、或いは不在である場合が多く、計画的に維持管理ができない状況にあり、結果的に「事後保全」になっている場合も少なくない。
計画的に維持管理を遂行するには、
①人材(維持管理に精通する専門技術者)の育成・確保
②予算の確保(点検、補修・補強など)
③新技術の開発(診断技術、補修・補強材料や工法)
などが挙げられる。
①人材の確保は、特に市町村への支援(技術者派遣、維持管理業務の代行など)が必要であり、上位機関である国や県からの支援体制の構築が必要である。また、維持管理業務は地味な分野であるが、維持管理業務を通じて誇りと働き甲斐を持って活躍できる枠組みづくりが必要である。
②維持管理の予算は、「事後保全」から「予防保全」へ転換することで約7割程度に圧縮されると試算されているが、今後30年で170~190兆円(5~6兆円/年)の予算が必要と予測されている。橋梁を例にとれば、交通量が1日に何万台も通る橋もあれば、数十台しか通らない橋もある。また、地方の橋梁の場合には、交通量は少ないもののその橋梁が無ければ集落が孤立してしまう極めて重要な橋梁もある。
これまで橋梁の重要度や優先順位の区分は管理者別に行っているが、今後の人口減少による財政逼迫を考えれば、少子高齢化社会に向けたコンパクト+ネットワークを視野に地域(ブロック)全体の整備計画と合わせて利用度などをしっかりとカテゴリー分けし、必要な整備に必要な予算を配分できる体制が必要である。
また、2013年に道路法が改正され、2014からは道路管理者は全ての橋梁、トンネルについて5年に1度近接目視で点検を行って健全性を診断することになった。現在、2巡目の点検になっているが、重要度、劣化・損傷度、利用環境(架設年次、交通量、塩害環境、積雪寒冷地など)を総合的に判断し、一律5年サイクルの点検に拘らず、各々身の丈に合った点検サイクルの妥当性、判定基準や点検手法が整理することで予算の適正な配分が可能である。
③新技術開発については、劣化・損傷原因に適合し、かつ施工性や耐久性に優れた材料等の開発は継続的な課題であるが、橋梁の健全度は主部材の最悪値で判定するルールとなっており、同じ評価でも劣化・損傷度合は橋梁ごとに異なっており、各部材の健全度から橋梁全体の「健全度」を総合的に判定する手法が確立されれば、対処する橋梁の優先順位が明確になる。
また、補修や更新を実施する際にどのタイミングで実施するのが妥当なのか?、或いは更新時期と予算化にあたり予寿命(この橋、いつまで供用できますか?)が求められる場合もあり、複数の部材で構成される橋梁の予寿命を簡単に算定するのは難しいが、効率的かつ効果的な維持管理を実施していくうえで、更なる技術開発を推進する必要がある。
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