維持管理について思うこと
阿部 孝
維持管理業務がスタートしたころ、何となくではあるが、新橋の設計は花形として主力メンバーが従事し、維持管理にはそれ以外のメンバーが従事すると言ったイメージがあった様に思う。
確かに、維持管理業務は、新橋設計の様に設計条件を揃えて設計計画と構造計算を繰り返して構造物を形づくっていくと言う醍醐味は少なく、地味な業務である様に思う。しかし、既存インフラは、維持管理・更新を適切に実施し、必要に応じて用途変更を行うなど、そのストック効果を最大限に発揮させる必要があり、今後、維持管理業務は益々増加して行くものと想定され、新橋設計を抜いて花形業務になる重要な業務である。
維持管理業務では、構造物特性、材料特性、施工による影響、自然環境下での劣化機構、そして劣化・損傷状況からの原因究明など、現地状況より様々なシナリオを組立て、診断結果に結び付けて行くと言う多岐に渡る高度な技術が要求される。また、既存構造物の診断の誤りは、しばしば再劣化を引き起すことが見受けられることから、診断する技術者としては極めて重要な任務であると認識している。
先日、ある雑誌を見ていた時、昭和31年のコンクリート標準示方書に「示方書の適用について」として以下の文章が掲載されているとの記事があった。『・・・コンクリート工事において共通する原則を一般的に示したものがコンクリート示方書であって、・・・(中略)・・・、一般の場合は示方書を厳守しなければならない。・・・(中略)・・・ただし、そのまま適用できない場合もあり、重要な工事でもっと制約的な条項が必要となる場合や、・・(中略)・・・その逆に、場合によっては条項を多少緩和しても良い場合もある。・・(中略)・・・標準示方書を適用する場合には字句にこだわりすぎてはならず、示方書の精神をよく理解し、必要があれば、これを適当に修正して利用しなければならない。しかし、何らの実験研究もしないで、単に現場の都合などにより標準示方書の条項に背くと、一般的に不経済な結果となり、また重大な失敗を招く原因となることもあることを忘れてはならない』とコンクリート標準示方書の精神、位置づけが明確に示されていると紹介されていた。
日々の業務を振り返って見ると、使用する基準類などの記載内容を読んで使用しているつもりであるが、基準値を設定した背景や位置づけを何処まで理解して使用しているだろうかと、改めて考えさせられた様に思う。
コンクリート構造物の診断にあたっては、劣化・損傷の種類、発生した時期、部位、パターン、気象条件などから、ある程度原因究明が可能なものもあれば、マニュアルなどの既往の診断技術を鵜のみにして見た目だけで診断した場合、類似の劣化・損傷であることを見抜けない場合もある。つまり、全く違った原因であることに気づかなければ、誤った診断となるケースもある。やはり、前述したコンクリート標準示方書の適用に記載されていた様に、既往の診断技術は「標準値」を示しているものであることから、劣化・損傷状況から想定される原因を列記し、必要に応じて詳細調査や各種試験などを行って、劣化・損傷の原因を適切に究明する必要がある。
また、原因がどうしても不確実な場合には、経過観測(暫く様子を見る)=「無理に補修しない」と言う選択も重要であり、継続に監視を行って、その影響や劣化の進行度合いに応じて調査・試験などを加えて、劣化・損傷の原因を究明していく必要がある。
最後に、橋梁補修業務に携わっていると、供用後50年程度経過しているが、まだまだ使用可能な橋梁もある。時々、発注者より「この橋、あと何年供用できますか?」と聞かれることがある。橋梁は色々な部材で構成されており、各部材の劣化・損傷の程度も異なり、補修を施すことで補修前に比べてどの程度機能或いは性能が回復したのかなどが数値で把握できない状況にある。今後の財政を考えると、効率的、かつ効果的な補修が望ましく、「現状のままだと、あと何年?供用可能である」、或いは「□と△の補修を施すことで、あと何年?供用可能である」が把握できないか!思っている。
以上
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